エンタメ

巨大な「誰かの顔」が早朝の東京に浮かび上がる! 7月に大きな反響を呼んだ「顔」が再び上空に

[2021/8/13 12:00]

 東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京が主催する「Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13」のひとつで、現代アートチーム目[me]が企画するプロジェクト《まさゆめ》。大きな反響を呼んだ7月につづき、再び、巨大な「誰かの顔」が、場所を変えて東京の空に浮かびました。なお、2021年8月13日(金)午前4:30~午前9:00の予定でしたが、天候の影響により午前6:50時点で終了したとのことです。

撮影:津島岳央

 《まさゆめ》は、年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。現代アートチーム目[me]のアーティストである荒神明香氏が中学生のときに見た夢に着想を得ているとのこと。「個人を最も表象する顔を、現代の東京という極めて公的な風景の中で見るという、『個』と『公』の関係の中に私たちの存在を問うもので、この圧倒的な光景が、今日、様々な困難に直面する私たちに、新たな『ものの見方』を示唆するものになれば幸いです」としています。

 このプロジェクトは、“遭遇的“な作品との出会いを通して「それぞれの主体的な体験を重視したい」というアーティストの思いを基に、浮上日時や場所を事前には公表せずに実施。それぞれの場所、時間、環境で鑑賞し、共有できる作品として、ライブ配信やSNS、マスメディアなど、様々なチャンネルを通じて多様なかたちで出会ってほしいとのことです。

 浮上した顔はおおよそビル6~7階分の大きさで、顔のモデルや浮上方法は作家の意向により非公開。顔の向きが変わる可能性はありますが、固定の場所に浮上したとのことです。

撮影:津島岳央

これまでの流れ

現代アートチーム目 [me]より、みなさまへ

 本作品《まさゆめ》は、オリンピック・パラリンピックを、ただ単に盛り上げようと実施した企画ではなく、今夏、世界中から最も注視される「東京」を舞台としたアート作品です。本作品を通して、私たちの直面している状況やその「意義」に目を向け、人々が主体的に思考をめぐらせるきっかけになればと考えています。

<アーティスト・ステートメント>(抜粋)
 1964年とは全く違うこの時代、そしてパンデミックの状況下、大きく見失われることになった、私たち人間の行動の根幹を支える「意義」。それを見出すのは、私たちの主体性と想像力に他なりません。現代アートチーム目[me]は、この人類最大規模の集いに、そしてこのパンデミックの困難な状況に、大きな「意義」を見出そうとすること、そして、その実感を後世に伝えることを、今も尚、諦めていません。

 たとえ、この大きな亡失が世界中に途方もなく広がっていたとしても、たった一人の少女の「夢」が、その大きな想像のきっかけになり得ることを私たちは知っています。私たちは、どんな状況であっても意味や理由だけに縛られず、新たな視線を持ってこの世界に対峙しなければならない。人類がいつも想像によって「後から」その意義を掴み、こうしてこの世界に生存し続けてきたように。

<伝えたいキーワード>
世界中が見る圧倒的な「他者」
 空に浮かび、SNSやメディアを通じて世界中から見られる巨大な顔は、世界中の人々にとっての「他者」です。この時代、この状況に見る「他者」とは何か?私たちは、他者について、どこまで考えられるでしょうか。

“私”だったかもしれない「顔」
 空に浮かぶのは、1,000 以上の応募の中から選ばれた実在する一人の顔です。誰でも応募することができました。つまり、誰にとっても「私かもしれなかった顔」ということです。もし、応募していたら自分の顔であったかもしれない。そんなことを思いながら、遠いようで、とても身近な、自分事としての作品体験をしてもらえたら嬉しいです。

出現した「謎」の光景
 これはアーティスト荒神明香が中学生の時に見た「夢」です。夢に理由はありません。つまりこの作品は、「理由」というものを放棄しているのです。現代社会の中で、あらゆる合理性や、あらゆる理由というものから、例え一瞬だけでも解放され、何にも捉われずに、ただこの光景を見てほしいです。

公共事業として実施する「現代アート」
 《まさゆめ》は、Tokyo Tokyo FESTIVAL 企画公募で採択された「現代アート」のプロジェクトです。物事の賛否に加担しない中立性、または事業枠内からの生産的な批判性という、現代アート特有の性質を活かした文化プロジェクトとして、多様な視点から力を合わせて、新たな価値やビジョンの創発に挑戦しています。

コンセプトは「個」と「公」
 《まさゆめ》は、「個」人を最も表象する顔を、現代の東京の風景という極めて「公」的な視界の中で見る作品です。また、「一人の少女の夢」を「公的な事業として実施」するという面からも「個」と「公」の関係が含まれています。「個」と「公」という、ある意味正反対の両者を同時に存在させることは、自身の意志によって「ここにいる私」と、偶然「この宇宙に存在している私」 という、私たちの存在の両義的な側面にも目を向けさせます。この、私たちの存在の本質的な不思議は、この困難な時代この状況に、向き合わざるを得ない私たちに、あらためて広い視野を届けてくれるかもしれません。

芸術とは、「この世界をもう一度見る」こと
 現代アートチーム目 [me]にとっての芸術は、この世界を何にも捉われずに「見る」ことです。芸術はこれまで実に様々な「ものの見方」 によってこの世界を捉え続けてきました。時に世界を抽象的に捉え、時に既存の価値を覆しました。そんな「ものの見方」は、私たちの生存にも直結します。私たちは、意味や理由に埋もれてしまい、どうしても見えなくなってしまうこの世界を、もう一度、想像力を持って新たに捉えたいと思っています。想像力は主体性によって生まれます。大変な状況が続きますが、どうか、共に、この世界を見て、考えましょう。

アーティスト・プロフィール

Photo:津島岳央

目 [me] アーティスト 荒神明香(こうじん はるか、写真・中)、ディレクター 南川憲二(みなみがわ けんじ、同・左)、インストーラー 増井宏文(ますい ひろふみ、同・右)を中心とする現代アートチーム。 個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。代表作に、個展「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー、2014年)、《おじさんの顔が空に浮かぶ日》(宇都宮美術館 館外プロジェクト、2013-14年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)、《repetitive objects》(大地の芸術祭 越後妻有アート トリエンナーレ2018)、《景体》(六本木クロッシング2019展:つないでみる、森美術館、2019年)、個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館、2019年)、などがある。第28回(2017年度)タカシマヤ文化基金タカシマヤ美術賞、VOCA展2019佳作賞受賞。2021年は個展「ただの世界」(SCAI THE BATHHOUSE)にて新作を発表。

《まさゆめ》とは

 年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。2019年3月から6月にかけて、WEBサイトやワークショップを通じて集まった顔は1,000以上。その後、顔を選ぶための参加型公開ミーティング「顔会議」(2019年6月23日実施)などを経て、2020年夏に実施が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け延期していました。これまで、“背景が東京であることの意味”や“作品を観ること”についてなど、多くの方々とプロジェクトの本質を共有しながら進めてきたとのことです。

[古川 敦]