人に最も近いボノボも老眼になることが判明。年をとるほど目を離して毛繕い~老眼は現代社会の目の酷使は関係ない?
京都大学霊長類研究所博士課程の柳興鎭(Ryu、Heungjin)氏と同研究員らが、人間に最も近い類人猿である野生ボノボの老眼の進行が人間と非常に似ていることを発見。学術誌「Current Biology」に2016年11月7日(米国時間)で発表されました。
これまで人間の老眼の原因として、読み書きなど現代社会の目と近い距離で起こる作業が指摘されてきましたが、実際には老眼と大きな関連がなく、自然な老化の過程であるとうかがえます。また、人間とボノボの目の老化の速度が共通の祖先から大きく変わっていないことを示唆しているとのこと。
人間の寿命は更年期の後も約20~30年以上続きますが、これが人間特有なことなのか、他の霊長類でも似た例が存在するのかについては、専門家の間で意見が分かれています。人間の長寿命の理由については、まだ確かな結論に達していませんが、今回の研究で人間の老化の現象でよく知られている老眼がボノボで発見されるのか、それはどのように進むのか人間と定量的な比較を試みたとのこと。
人間では、眼球レンズの屈折力の低下に伴い、40歳前後で焦点を合わせるために必要な距離が急激に増加し、焦点を合わせるのに必要な目・ターゲット間の最小距離は年齢に応じて増加します。これが老眼という状態です。
今回の研究では、デジタルカメラと巻尺を用いてボノボの耳の長さを測定し、この耳の長さを利用してボノボが毛繕いをするときの目と指間の距離を測定。京都大学が40年以上研究を継続してきたWambaのE1グループを対象としたため、ボノボの年齢の特定は容易に行なえ、野生ボノボの老眼の進行が人間の老眼進行速度と酷似ていることを発見したとのこと。
ボノボは毛繕いをするとき目と指の間に一定の距離を維持。特に40歳を前後にして、その距離が著しく増加。この毛繕い距離が年齢の増加に応じて指数的に増加することを発見し、この増加のパターンが人間とほぼ一致することが明らかになりました。また老眼の進行は人間と同様、メスとオスで相違がないほか、焦点に必要な最小距離の増加のパターンが人間とボノボに大きな違いがなく、人間とボノボの目の老化に大きな差がないとのこど。
今まで野生のチンパンジーでも老眼の事例報告があったものの、これを定量的に分析して人間と比較した研究は、今回が初とのこと。もし目だけでなく他の体の部位の老化も同様に起こる場合、人間の長寿命は進化的に選択されたものではなく、社会的・環境的な要因によって促進された可能性が高いといえるとしています。
また、老眼が発見されたボノボのうち、3頭がオスでした。野生のオスチンパンジーはほとんど40歳に到達せず死ぬため、野生のオスのチンパンジーではまだ老眼が報告されていません。もし野生のオスボノボが野生のオスチンパンジーに比べて老眼がくるまで、より多くの生き残るなら、ボノボの寛大で平和的な社会環境がボノボのオスの長寿命に影響を与えていると考えられるとしています。