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日本の科学研究はこの10年間で失速している! 論文数が過去5年間で8.3%減少。Nature Index 2017日本版で明らかに~政府主導の取り組みがなければ、科学界のエリートの地位が脅かされる

[2017/3/23 16:32]

 研究、教育、専門領域の出版社シュプリンガー・ネイチャーが2014年11月に初公開したデータベース「Nature Index」が、日本の科学成果の発表の水準は低下しており、ここ10年間で他の科学先進国に後れを取っていることを発表しました。

 同社では、政府主導の新たな取り組みによって、この低下傾向を逆転させることができなければ、科学の世界におけるエリートとしての座を追われることになりかねないとしています。

 Nature Indexに収録されている高品質な科学論文に占める日本からの論文の割合は、2012年から2016年にかけて6%下落。中国の急速な成長の影響により、米国などの科学先進国が占める割合は相対的に低下しているものの、日本からの論文発表は、絶対数も減少しており、Nature Indexに収録されている高品質の自然科学系学術ジャーナルに掲載された日本の著者による論文数は、過去5年間で8.3%減少しているとのこと。

 これらは、Nature 2017年3月23日号の特別企画冊子「Nature Index 2017 Japan」に掲載されているレポートで明らかにされており、日本の近年の研究実績に関する情報が詳細に紹介されています。世界の8,000以上の大学や研究機関による高品質の研究を追跡している「Nature Index」のデータに基づいているとのこと。

 「Nature Index 2017 Japan」は、クラリベイト・アナリティクスのウェブ・オブ・サイエンス(WOS)や、エルゼビアのスコーパス(Scopus)データベースのデータも取り上げており、これらのデータから、日本の研究が低下傾向にあることがはっきりと現れているとのこと。

 WOSによれば、日本の論文出版数を2015年と2005年とで比較した場合、14分野中11の分野で減少。伝統的に日本が強い分野である材料科学および工学の論文出版数は10%以上減少しており、減少率が最も大きかったのが計算機科学で37.7%も減少しています。

 ただし、医学、数学、天文学の3つの分野においては、10年前よりも増えていますが、査読付き文献を広く網羅するスコーパス・データベースに収録されている全論文数が2005年から2015年にかけて約80%増加しているにもかかわらず、日本からの論文数は145しか増えておらず、全論文中で日本からの論文が占める割合も7.4%から4.7%へと減少しています。

 こうした全般的な低下傾向により、日本の若い研究者たちは厳しい状況に直面しており、フルタイムで働けるポジションも少なくなっています。日本政府の研究開発支出額は、世界で依然としてトップクラスであるものの、2001年以降ほぼ横ばい。一方で、ドイツ、中国、韓国など他の国々は研究開発への支出を大幅に増やしています。この間に日本の政府は、大学が職員の給与に充てる補助金を削減し、国立大学協会によると、その結果、各大学は長期雇用の職位数を減らし、研究者を短期契約で雇用する方向へと変化しているとのこと。短期契約で雇用されている40歳以下の研究員の数は、2007年から2013年にかけて2倍以上に膨れ上がっています。

 Nature Indexの創設者であるDavid Swinbanks氏は、「日本は長年にわたり、科学研究における世界の第一線で活躍してきました。しかし、Nature Indexおよび当社のパートナーから収集したこれらのデータは、日本がこの先直面する課題の大きさを描き出しています。世界各国が科学技術予算を増大させてきた中で、日本では2001年以来科学への投資が停滞しており、その結果、日本の機関では高品質の研究を生み出す能力に悪影響が表れ、衰えが見えてきています。こうした状況に対し、日本政府は取り組みを開始しており、大学改革を政府の最優先課題の1つとして掲げ、イノベーションと成長を促すための政策を模索しています。その1つ、長期的な職位を増やすための支援を行うことによって、大学に勤める40歳以下の研究者を2020 年までに10%増やそうという計画を、諸手を挙げて歓迎すべきでしょう」とコメントしています。

 なお、現在、高品質の科学研究を生み出している日本の機関トップ10は、第1位が東京大学、その後に京都大学、大阪大学、東北大学と続き、日本最大の研究機関である理化学研究所が5位に入り、東京工業大学、名古屋大学、九州大学、北海道大学、国立研究開発法人物質・材料研究機構と並んでいます。

[古川 敦]