「みんな、苦しいから、困っているから来るわけで…」 男性セックスワーカー10人のノンフィクション「男娼」が刊行~自分の生きている世界だけがすべてじゃない
松坂桃李さんが出張ホストを演じた映画「娼年」は、松坂さんが体当たりで挑んだ濡れ場の大胆さだけでなく、これまであまり語られることのなかった「男娼(男性セックスワーカー)」に焦点を当てたことも注目されました。
2018年6月20日に発売されたノンフィクション「男娼」(中塩智恵子著・光文社)には、出張ホストを始め、10人の男性セックスワーカーへの取材がまとめられており、映画内では描かれていなかった「男娼」たちの内実が事細かに書かれています。四六判ソフトで、価格は1,500円(税別)。
出張ホストのサービス料金は2時間1万円前後。顧客には処女もいれば風俗嬢もおり、年齢層も幅広く、夫婦やカップルでの利用も。パートナーの粗いセックスや本心を伝えられないセックスが苦痛で、出張ホストに助けを求める客も多いとのことで、とある出張ホストは「みんな、何か理由があるから来るんです。みんな、苦しいから来るわけで、困っているから来るわけで」と語っています。
「男娼」では、出張ホストのほか、ウリセンボーイ(おもな顧客は男性同性愛者、女性)、ニューハーフヘルス嬢(おもな顧客は異性愛者の男性)らの本音も浮き彫りにし、売れっ子のウリセンボーイは「ウリセンに出会えて良かった」と語ります。
「小さい頃から『馬鹿』と言われてきたから、本当に自分は馬鹿なんだと思っていたし、『死ね』と言われたら、死んだほうがいいのかなと思うじゃないですか。そういう思考回路で生きてきたんで自己評価が低いから、ウリセンでは逆にいろいろな挑戦ができるのかなと思います」と話します。
LGBTで言うところのTであるニューハーフヘルス嬢は、セクシュアルマイノリティーの存在が加速度的に可視化されてきた社会について、「普段、自分がふれない人やモノってやはり怖いわけです。だからそういう怖いもの、理解できないものを追い払う、排除する方向になるわけです」と危惧します。
著者の中塩智恵子氏は、「本書に登場する『男娼』たちの生き方を知り、誰かの想いを知ることで自分以外の人間への想像力を働かせることの重要性である。自分の生きている世界だけがすべてじゃない。そんな当たり前のことを実感し、考え方の幅や枠をひろげることができる一冊」としています。
オビ文は中村うさぎさん、三橋順子さん
「女も男もゲイも、何を求めて彼らを買うのか? それは『セックス』ではなく『私』。『私』の回復、『私』の発見、『私』の確認なのだ。『性』とは常に『私』をめぐる物語なのである」――中村うさぎ(作家)
「その昔『闇の男』と呼ばれた男娼には、
1.女装で男性の相手
2.女装で女性の相手
3.男性で男性の相手
4.男性で女性の相手
の4類型がある。本書はその内1.3.4.の『生』と『性』を描き出す」――三橋順子(ジェンダー/セクシュアリティの社会・文化史研究者)
目次
第1章 出張ホスト(顧客:女性)
専業歴13年。元社長、研究者肌の有名出張ホスト(48歳)
性感マッサージをメインに活動する、物静かな癒し系(31歳)
胸板も語りもアツい、プロフェッショナルなベテラン(42歳)
第2章 ウリセンボーイ(顧客:おもに男性同性愛者、女性)
25歳でボーイデビューした、子持ちのウリセンバーオーナー(37歳)
自己評価が低く、ノーと言えない“気ぃ使い”な売れっ子(28歳)
出張型ウリセンオーナー(30歳)と“ゆとり世代”のボーイ(22歳)
第3章 ニューハーフヘルス(顧客:おもに異性愛者〈ストレート〉の男性)
トランスジェンダー活動家の元ニューハーフヘルス嬢(53歳)
11歳でロストバージン、AV女優の“男の娘” (年齢非公開)
大手企業を辞め46歳で突然デビューしたヘルス嬢(54歳)