史上初のブラックホールの撮影に成功! 国立天文台が解説マンガも公開~地球上の8つの電波望遠鏡を結合させた国際協力プロジェクトの成果
地球上の8つの電波望遠鏡を結合させた国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」研究チームは10日、世界6か所で同時に行なわれた記者会見で、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したと発表しました。
史上初、#ブラックホールの撮影に成功!画像は、イベント・ホライズン・テレスコープ(#EHT)で撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウ。詳細は#国立天文台サイトにてhttps://t.co/kKsdtf5MTg#RealBlackHolepic.twitter.com/AelY0EnW0X
— 国立天文台 (@prcnaoj)2019年4月10日
なお、国立天文台のサイトでは、今回ブラックホール の撮影成功について、簡潔に一枚にまとめた「『史上初 ブラックホールの撮影に成功!』展示用ポスター」や、漫画で解説した「EHTマンガ『ブラックホールの撮影に成功!』」も公開されています。
今回の#EHTによる#ブラックホールの撮影成功について、簡潔に一枚にまとめた画像。詳細は#国立天文台ウェブにて→https://t.co/kKsdtf5MTgpic.twitter.com/Sba270xInY
— 国立天文台 (@prcnaoj)2019年4月10日
今回、史上初のブラックホールの撮影に成功したのは、銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウで、リング状の明るい部分の大きさはおよそ42マイクロ秒角、月面に置いた野球のボールを地球から見た時の大きさに相当するとのこと。この成果は、4月10日付のアメリカの天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」特集号に6本の論文として掲載されています。
イベント・ホライズン・テレスコープは、世界中の電波望遠鏡をつなぎ合わせて、圧倒的な感度と解像度を持つ地球サイズの仮想的な望遠鏡を作り上げるプロジェクト。長年にわたる国際協力の結果で、アインシュタインの一般相対性理論で予言された宇宙のもっとも極限的な天体を探る新しい手段を研究者たちに提供しています。なお今年は、一般相対性理論が歴史的な実験によって初めて実証されてから100年の節目の年に当たります。
今回撮影されたのは、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールで、地球から5500万光年の距離にあり、その質量は太陽の65億倍にも及ぶとのこと。
イベント・ホライズン・テレスコープの代表を務めるシェパード・ドールマン氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は、「私たちは、ついにブラックホールの姿を初めてとらえました。200人以上の研究者がチーム一丸となって成し遂げた偉大な科学的業績といえるでしょう」と語っています。
ブラックホールは、莫大な質量を持つにもかかわらず非常にコンパクトな、宇宙でも特異な天体。ブラックホールがあることで、その周辺の時空間がゆがみ、周囲の物質は激しく加熱されます。「もしブラックホールのまわりに輝くガスのような明るいものがあれば、ブラックホールは『影』のように暗く見えるはずです。これはアインシュタインの一般相対性理論から導き出せることですが、私たちはこれまでそれを直接見たことはありませんでした。」と、オランダ・ラドバウド大学のハイノー・ファルケ氏はコメントしています。
複数のデータ較正や画像化手法を用いることによって、明るいリングの中に暗い部分が写し出され、これこそが、ブラックホールシャドウ。イベント・ホライズン・テレスコープで繰り返し観測を行なっても、このシャドウの存在は揺らがなかったとのこと。
東アジア天文台長であるポール・ホー氏は「ブラックホールシャドウを写し出せたと確信した後、私たちはシミュレーション結果とこの画像を比較しました。シミュレーションには、ブラックホールのまわりのゆがんだ時空や超高温になったガス、磁場などさまざまな効果を取り入れています。観測で得られた画像は、理論的予測と驚くほどよく一致していました。これによって、ブラックホール質量推定や私たちが写し出した画像そのものの意味についても、確信を持つことができました」と語っています。
イベント・ホライズン・テレスコープを実現するためには、既存の8つの望遠鏡をアップグレードして結合する必要があり、これ自体が挑戦だったとしています。望遠鏡はハワイやメキシコの火山、アリゾナやスペイン・シエラネバダ山脈の山々、チリのアタカマ砂漠、そして南極に設置されています。それぞれ観測条件は良い場所ですが、人間にとっては厳しい環境にあります。
イベント・ホライズン・テレスコープは、超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry: VLBI)という仕組みを用いており、世界中に散らばる望遠鏡を同期させ、地球の自転を利用することで、地球サイズの望遠鏡を構成。今回イベント・ホライズン・テレスコープが観測したのは、波長1.3mmの電波で、VLBIにより、イベント・ホライズン・テレスコープは解像度20マイクロ秒角という極めて高い解像度を実現。これは、人間の視力300万に相当し、月面に置いたゴルフボールが見えるほどとのこと。
今回観測に使用された望遠鏡は、APEX(チリ)、アルマ望遠鏡(チリ)、IRAM30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(米国ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)]。得られた生データの合計は数ペタバイトにもなり、これらはドイツのマックスプランク電波天文学研究所とアメリカのマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に設置された専用のスーパーコンピュータで処理。
イベント・ホライズン・テレスコープを実現するために13のパートナー機関が力を合わせ、既存の観測装置を活用するとともにさまざまな機関からの支援も受けて活動。主要な資金援助は、アメリカ国立科学財団と欧州連合の欧州研究会議、そして東アジア地域の資金配分機関からのもの。
日本の研究者も、さまざまな面でこの研究に貢献。日本と台湾・韓国、北米、欧州が共同で運用するアルマ望遠鏡は、観測に参加した望遠鏡の中でもっと感度が高く、イベント・ホライズン・テレスコープ全体の感度の向上に大きな貢献し、アルマ望遠鏡をイベント・ホライズン・テレスコープの一員とするために、山頂のアンテナ群から山麓施設にデータを伝送する装置は国立天文台が開発しています。
イベント・ホライズン・テレスコープ日本チームの代表である本間希樹 国立天文台教授・水沢VLBI観測所長は、「日本の研究者は、ソフトウェアや研究においても貢献をしています。私たちは、『スパース・モデリング』と呼ばれる新しい手法をデータ処理に取り入れました。これにより、限られたデータから信頼性の高い画像を得ることができました。最終的には、4つの独立した内部チームが3つの手法でデータの画像化を行ない、いずれもブラックホールシャドウが現れることを確認しました」と語っています。
研究チームの一員で、2019年3月まで国立天文台に在籍し現在はマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に移った森山小太郎研究員は「さらに私たちは、具体的な方法を変えながらおよそ5万通りもの画像化を行い、得られたブラックホールシャドウの画像の特徴が本当に信頼できるものであるかを入念に確かめました」とコメント。
同じく研究チームの一員である田崎文得 国立天文台水沢VLBI観測所特任研究員は、「日本独自の手法でデータを解析し、ブラックホールシャドウの画像化に成功した時は、本当に興奮しました。さらに画像化の成功を世界中の仲間と共有できたことは、これまでで最も幸せな瞬間の一つです」とその喜びを語っています。