液体のりが白血病の次世代治療法を切り開く!? 東大などの共同研究チームが造血幹細胞の増幅に成功~骨髄破壊的処置不要で造血幹細胞移植が可能に
東京大学医科学研究所の山崎聡特任准教授(幹細胞生物学分野)を中心としたスタンフォード大学と理化学研究所との共同研究チームは30日、通常の培養で使用する高価なウシ血清成分やアルブミンの代わりに、液体のりの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)を用いることで、安価に細胞老化を抑制した造血幹細胞の増幅が可能になったと発表しました。
この研究成果は、白血病を含む血液疾患への次世代幹細胞治療の道を開くとともに、幹細胞分野の基礎研究にも大いに貢献するものと期待されます。なお、この論文は、「Nature」の2019年5月30日オンライン版に掲載されています。
今回の研究で、細胞培養でウシ血清成分や精製アルブミン、組み換えアルブミンが造血幹細胞の安定的な未分化性を阻害していることを突き止めたとのこと。しかし、アルブミンのようなタンパク質を培養液に加えないと、造血幹細胞の細胞分裂が誘導できないことが問題になります。
今回、“液体のり”の主成分であるポリビニルアルコール(PVA)が、血清成分やアルブミンの代わりになり、しかも血清成分やアルブミンと異なり、造血幹細胞の未分化性を維持したまま、数カ月培養可能であることが明らかになったとのこと。
1カ月間以上も造血幹細胞を未分化な状態で増幅培養できる報告は世界で初めてで、今回の技術により、ドナーから1個の造血幹細胞さえ分離採取できれば、複数の患者が治療できる可能性が示されたとしています。
マウス造血幹細胞を用いた実験により、1個の造血幹細胞を得ることができれば複数の個体へ造血幹細胞移植が可能であることが判明。ヒト造血幹細胞にも応用可能であると期待され、おもに小児の血液疾患に対して移植処置の合併症リスクを軽減した安全な造血幹細胞移植が提供できるとともに、幹細胞治療や再生医療への応用や医療コストの軽減に期待されるとしています。
造血幹細胞は、全血液細胞を一生涯にわたり供給することができる組織幹細胞。血液疾患を根治する際の骨髄移植(造血幹細胞移植)には欠かせない細胞であり、ドナーからの供給が非常に重要です。しかし、高齢化社会などによるドナーの減少により、骨髄バンクや臍帯血バンクの補助的なシステムの構築が課題となっています。そこで研究チームは、白血病を含む血液/免疫疾患患者へ応用を目指して造血幹細胞を生体外で増やす技術開発を進めていたとのこと。
マウスから1つの造血幹細胞を分離採取し、1カ月間培養し増幅させた後に複数の放射線を照射した(骨髄破壊的処置し貧血を誘導した)マウスに移植。その結果、すべてのマウスで移植した増幅造血幹細胞の骨髄再構築が確認できたとのこと。この結果は、ドナーからごくわずかな造血幹細胞を得てその得られた造血幹細胞を増幅することで、複数の患者へ移植可能な造血幹細胞が準備できることを示しています。
今まで、造血幹細胞は骨髄中に存在する特殊な環境(骨髄ニッチ)を放射線や薬剤による骨髄破壊的な処置を行なわなければ骨髄への生着は難しいとされていましたが、近年の日本国内外の研究チームの報告から、大量の造血幹細胞を個体へ移植することで、骨髄破壊的な処置を用いずに造血幹細胞の生着が可能であることが示されています。
しかし、ドナーから得られる造血幹細胞の数に限りがあるため、この大量の造血幹細胞移植は現実的に不可能であると考えられてきました。今回見出された増幅培養系を用いることで、50個という少ない造血幹細胞から充分量の造血幹細胞を得ることに成功し、骨髄破壊的な処置を用いない安全で容易な造血幹細胞の移植法を新たに発見されたことになりになります。
今回のマウスの造血幹細胞を用いた研究から、液体のりの主成分であるPVAを用いることで、造血幹細胞の長期培養系における増幅に成功し、これらの培養系はヒト造血幹細胞においても応用できる可能性が示されました。以上の成果は、白血病を含む血液疾患への次世代幹細胞治療の道を開くとともに、幹細胞分野の基礎研究にも大いに貢献するものと期待され、PVAは日常的に用いられている安価な化学物質であり、かつ医薬品製造グレードの製品が容易に入手できることから、幹細胞治療へのコスト削減にも大いに貢献するものと期待されるとしています。