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ジャガイモが有毒な芽を出さない研究成果を理研が発表~有毒物質を抑え、萌芽を制御できる育種を遺伝子操作で生産できる可能性

[2016/7/28 23:38]

 ジャガイモから芽が出てしまうと、芽は毒だから取らなくちゃいけなくて、めんどくさいですよね。ジャガイモの緑化した皮の周辺と芽には、SGAが高濃度に蓄積され、SGAが少ないと“えぐみ”になり、SGAが多くなると食中毒を引き起こすそうです。

遺伝子組換えジャガイモの休眠後の様子

 例えば、ジャガイモの品種の一つ、メークインは日光にさらすと、簡単に食中毒の原因となるレベルにまでSGAが蓄積されます。また、ジャガイモには収穫後数か月間、成長や発生が一時的に停止する「休眠期間」があり、休眠後に萌芽が始まるため、1年以上の長期保存はできず、ジャガイモ加工業にとって大きな課題となっています。

 そんな、やっかいなジャガイモの芽問題を解決する可能性にある研究結果が、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター統合メタボロミクス研究グループの梅基直行上級研究員、斉藤和季グループディレクター、大阪大学大学院の村中俊哉教授、神戸大学大学院の水谷正治准教授らの共同研究グループから発表されしました。

 同研究グループは、ジャガイモに含まれる有毒物質であるソラニンなどの「ステロイドグリコアルカロイド(SGA)」の生合成に関わる遺伝子「PGA1」と「PGA2」を同定し、これらの遺伝子発現を抑制するとSGAを作らなくなるとともに、ジャガイモの萌芽を制御できる可能性を発見しました。

同定したSGAの生合成経路と遺伝子の関係

 SGAはコレステロールを出発物質として生合成されることが知られていますが、SGAに至るまでの生成機構は明らかになっていませんでした。今回、共同研究グループが、SGAが多く蓄積される芽と花で多く発現する遺伝子を解析したところ、PGA1とPGA2を発見。

 PGA2はコレステロールを22-ヒドロキシコレステロールに変換する22位水酸化酵素をコードすること、PGA1は22-ヒドロキシコレステロールを22, 26-ジヒドロキシコレステロールに変換する26位水酸化酵素をコードすることを明らかにしました。

 また、PGA1とPGA2の発現をそれぞれ抑制した遺伝子組換え植物体から収穫したジャガイモのSGA含量は、どちらの遺伝子を抑制した場合も非遺伝子組換えジャガイモよりも極めて低下。さらに、予想に反して遺伝子組換えジャガイモは休眠期間が過ぎても萌芽せず、土に植えると萌芽し始め、この現象は4℃で3年間保存した後でも再現でたとのこと。

 この結果により、PGA1とPGA2の遺伝子発現を抑制したり、ゲノム編集で遺伝子を破壊したりすることで毒がなく、かつ萌芽を制御できるジャガイモを育種できる可能性があるそうです。

 今後、PGA1やPGA2遺伝子を標的としたゲノム編集などによる遺伝子破壊の手法を利用することで、SGA含量を低く抑え、かつ萌芽を制御できるジャガイモの育種が可能となると期待できるとしています。

[古川 敦]